Tokyo Zombi

映画の感想を書きます。全米の週末ランキングもまとめてます。

新感染 ファイナル・エクスプレス

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パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』ぶりの「ScreenX」にて鑑賞。

前回は海洋の広大さが感じられる演出でしたが、今回は狭い電車内での閉塞感や、迫りくるゾンビの圧迫感が表現されていました。パノラマっぽく使用して『300』のように魅せるシーンも大興奮。さらには「周囲から向けられる敵意」の表現にも利用されていて斬新さを感じました。

※以下でストーリーのネタバレをしています

ゾンビ映画としては 118分と長めですが、ドラマ性が高くて飽きのこない作品に仕上がっていました。すれ違いがちな父子が主役という設定がそれだけで「絆を取り戻す」という落涙必至な展開を期待させますし、サブキャラも個性が立っていてムダな登場人物がまったくいないというすばらしさですよ。

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通常のゾンビものと違って、発生のプロセスが省かれているのは好印象です。結局のところゾンビが襲ってきて感染が拡大するのはお決まりですし、根源を断つことが目的ではないのでまったく問題ないです。そのあたりは本作の前日譚『ソウル・ステーション/パンデミック』で語られるのではないかと。

ゾンビの動きでは「跳ねる」というアクションが目新しいですね。ゾンビがパルクールをする『ラン・オブ・ザ・デッド』ほど激しくはないですが、人を襲う瞬間には少しでも早く噛みつきたい!→跳ぶという本能的かつ合理的な行動!

電車内という閉鎖空間をうまく利用したストーリー展開が秀逸で、車両間を移動して後部車両を目指す流れはポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』のようで燃えます!乗客が多すぎると自由度が制限されるので、序盤に途中下車(脱落)をさせて一気に減らしてしまう思い切りの良さもグッド。

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妊娠した奥さんを守るために奮闘する男・サンファ(マ・ドンソク)がまさにヒーロー的ポジション。主人公・ソグ(コン・ユ)と衝突しまくる脳筋タイプかと思いきや、常に他人を思いやれる優しさと守れる強さを持ち合わせている男の中の男。ソグも彼に影響されて成長できるわけですよ。

そして車両ごとに立ちはだかる難関にハラハラ。野球部仲間のゾンビに対面し、彼らの頭をバットでかち割ることができない高校生ヨングク(チェ・ウシク)の葛藤。視覚と聴覚に頼るゾンビをかわすために、トンネル通過中の2分間の暗闇でやり過ごすというミッション。それらを乗り越えてもゾンビ映画あるある「人間同士のいざこざ」が避けられない人間の愚かさたるや…。

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本作では他人を犠牲にしても生きようとする、とことん利己的な人間というのが後を絶ちません。生存本能から来る行動ゆえに仕方がないことかもしれませんが、これがまぁ憎たらしい!左の車掌なんてフルポンの村上に似てるから憎さ倍増!

こういった人間が痛い目に遭うことでスカッとするのもジャンル映画の特徴ですが、なかなかしぶとかったですよね…とくに右のおっさん…。最終的にラスボスにまで昇格しやがってからに…!できればゾンビに襲われて苦しむ様が観たかったぁ~。

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生存者あれば犠牲者あり。彼らにも魅力が満載なのです。例えば野球部のマネージャーのジニ(アン・ソヒ)。同級生たちが次々とゾンビになっていく中、常に互いを思い合っていたふたり。最期はあまりの無力感がリアルで切なく感じました。

そして老いた姉妹。いつも他人を想う姉が最期には周囲の人間に裏切られてゾンビと化してしまう無慈悲さ。運転士もそう。乗客を釜山まで送らなければという責任を最後まで背負って闘っていました。

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皮肉なことに優しい人間ばかりが犠牲になっていくという残酷さのなか、ソグも最初は利己的で排他的ですらあったのに、最終的には助け合うことを選択します。他人を蹴散らして這いつくばる「いかに生きるか」よりも、大切な人のために命を散らす「いかに死ぬか」を選択する強さ、それを数々の犠牲により学んでいきました。やっぱり涙が抑えられない展開が待っていましたよ…。

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ここ数年の韓国映画のクオリティは邦画とは比較にならないと言われるほどですが、日本で『アイアムアヒーロー』というゾンビ映画の傑作が生まれたことで、ジャンル映画にも邦画界の希望があると感じていました。が、こんなにもエキサイティングでドラマチックな作品が同時期に公開されていたとは…。乗り遅れないように必死にしがみついていこうと思いました!